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ホテル、レストランなどホスピタリティ・インダストリに特化したヘッドハンター茂木幹夫(もてぎ みきお/ www.kyotoconsultant.net)の「非首狩族的な」日々。


by Mikio_Motegi

飲食店のBGMについて

店の雰囲気と全くミスマッチなBGMを流している飲食店は多い。
最近の傾向なのか、フュージョン料理の店でなく鮨屋や居酒屋等の
和風料理屋でBGMにジャズやクラシックがかかっている。
これは何故だろう?

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2002年4月からJASRAC(日本音楽著作権協会)により著作権の
管理が厳しくなり、届出をせずにそれぞれが勝手なBGMを店内で
流せなくなったという理由も一因だ。
つまり飲食店やホテルなどで、有線放送会社が有償で提供する
パッケージ以外の楽曲を、事実上利用できなくなった。
だが有線放送のコンテンツは多種多様で、それそれの店に合う
パッケージを見つけることは容易だ。

そもそも飲食店におけるBGMなんて、不必要だと思う。
フレンチ・レストランでのカップルの囁き、いたわりあう老夫婦の会話、
10年間同じ時刻にやって来て同じ席に着く常連と古参ウェイターとの
会話、家族の団欒、グラスやカトラリーの触れ合う音、フランベする
時のブランデーの燃える音と小さな歓声。
或いは鮨屋でのカウンター越しの板前さんとお客の掛け合い、
不倫カップルの中年男の薀蓄(うんちく)とお相手の水商売風の女
の合いの手、暖簾の向こうの穴子を炭火で炙る音。

それらの物音が渾然一体となって店の雰囲気を構成する重要な
ファクターとなる筈で、ここでは無粋なBGMなどが入る余地は無い。

まあ、そこまでを期待しなくても、やはり店の雰囲気に合う選曲は必要
ではないだろうか。

私が最近店内に入るなりずっこけたのは、和歌山の海鮮居酒屋での
「ラウンド・ミッドナイト」、京都・下鴨の住宅街にひっそりと佇む鮨屋での
モーツァルト・クラリネット協奏曲、そして京都郊外の朽木(くつき)に
ある川魚と蕎麦会席店でチェット・ベイカーを聞かされた時である。

朽木の蕎麦会席店など、以前は民芸調のシンプルなつくりだったのに、
経営者が変わったのか白木のインテリアに間接照明が施され、
オープンエア席が廃止され全席禁煙になった。
おかげで直ぐ傍を流れる安曇川のせせらぎや、林を渡る風の声が
全く聞こえなくなった。
それに加えてのチェット・ベイカーのけだるいボーカルである。
メニューも一品料理が無くなり全部会席のコースに。
当然料金も跳ね上がっている。

これらの店長に「なぜこの店でジャズを流すの?」と聞いてみると、
彼らは一応に「有線放送でして、勝手に曲が流れてくるのです」と答える。
そこには店へのこだわり、愛着がまったく感じられない。
BGMも店の雰囲気を構築する重要なファクターの一つだという認識が
店主にあったら、上記のような安易な選曲はあり得ない筈。
もっと言うと、そこで働く店員たちはどう感じるのだろう?
甘ったるいボーカルやストリングスを一日中聞かされて、つい一杯
やりたくなってしまい、彼らが家路に着く際に飲酒運転で捕まりやしない
だろうかと余計な心配をしたくなってしまう。

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1996年、ジャカルタのシャングリ・ラに「なだ万」がオープンする際、
マネージャーの鈴木さんは何処の日本料理屋でも流れている琴や
三味線主体の和風BGMを一切排除し、ご自分の趣味でもあるS.E.N.S、
姫神等の現代音楽、イ・ムジチ合奏団、琴で演奏するバッハ等の
CDを持ち込んだ。
もちろんお客の会話の邪魔にならない様にボリュームも徹底的に調整した
ことは言うまでも無い。

「なだ万」がターゲットにしたのはジャカルタの日本人ビジネスマンや
駐在員家族だけでなく、地元インドネシアの華僑達だ。
彼らは東京や京都の一流料亭の味と雰囲気を知りぬいている。
安っぽい演歌や三味線のBGMなど聞かせようものなら、たちまち悪評が
彼らのネットワークに広がってしまう。
もちろん鈴木さんの選曲が華僑達に好評だったことは言うまでも無い。

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飲食店ではないが、毎年クリスマス時期のホテルのロビーで流れる
クリスマス・ソングも、働いている方はいい迷惑である。
私がフロントの夜勤担当だった4年間、この時期は一晩中クリスマス・ソング
がロビーに鳴り響いていて、耳にこびりついてしまったものだ。

おかげで今でも私はクリスマス・ソングが嫌いである。
「赤鼻のトナカイ」が街中に流れると、その日の売上げと仕訳けが合わずに
脂汗を流す自分を思い出してしまうので、財布のヒモも固くなるのだという
言い訳は家族には通用しないが。
by Mikio_Motegi | 2009-06-28 18:47 | 人材・ホテル