早起きの効能
2010年 08月 07日
ここ15年ほど続いている。
海外のホテルで勤務していた頃からのものだ。
あちらでは日本との時差の関係で、その時間だとしょーもない
電話が日本からかかってこないので、煩わされず落ち着いて
事務作業に没頭できる。
シンガポールでは7時45分にホテルに着くと、オフィスには行かず
に隣のブギス・ジャンクションにあるコーヒーショップ"Spinelli”
(現在はスタバ)に寄り、コーヒーを飲みながら地元新聞を読み耽る
のが習慣だった。約15分間の朝の大事な儀式だ。
同僚のジョナサンの " Without a cup of coffe, I cannot start
a day" という口癖のとおり、私の朝は一杯のコーヒーから
はじまったのだ(何かのCMみたい)。
「早起きは三文の得」というが、私の場合この時間に毎朝コーヒー
を飲む事にもう一つ重要な理由があった。
この時間がインターコンチネンタルホテルズのアジア・パシフィック
地域の社長、リチャード・ハートマンと直接言葉を交わせる数少ない
機会だったからである。
ハートマン社長は通常私より5分ほど遅れてやってくる。
当初は"Good Morning, Mr.Hartman" という私の挨拶に対し、
"Good Morning" と低く良く通る声で返礼してたくれただけだったが。
1999年に、彼は私の所属していた日本のセゾングループから
インターコンチを買収したBASS Hotelsよりアポイントされた社長だ。
前職はアメリカのシェラトンだったが、ウェスティンと合併した為
「ゴールデン・パラシュート」で引退した大物で、当初は私の事など
もちろん知らなかった。
その頃、ホテルの常連で私が今も親しくさせて頂いている名古屋の
レストラン王T氏がハートマン社長と知り合い、その通訳に駆り出される
事があり、私について見知ってもらえるようになったのは幸運だった。
ユダヤ系の彼は記憶力が抜群だ。その当時で彼宛てに1日200通の
メールが来るが、彼はざっと目を通しただけで全て記憶してしまう
という事だった。彼の秘書が言うのだから間違いないだろう。
なんでもユダヤ教の経典を憶える特殊な記憶法を身につけていて、
それを応用しているのだという。
とにかくそれをきっかけに朝会うたびに"Good Morning, Mikio"と
私の名前を憶えて呼んでくれるようになった。
時々挨拶ついでに「ビジネスはどうだ?」と聞いてくる事もある。
寝呆けた人間なら「ボチボチでんなあ」とか「あきまへんなあ」とか
答えて、翌日からは無視されるかカリマンタン(ボルネオ)あたりに
飛ばされるかだろう。
だが私は自分を売り込む為に、企画しているマーケティング・プラン
を取り出し、社長の意見を聞いてみるという暴挙にでたことが
何度かあった。
そのプランは特に奇をてらったものではない。特定の顧客を
ターゲットにし、グループホテルや近隣の商業施設、他ホテルを
巻き込む、且つ若干の販促費がかかる。
今流行りの"Destination Marketing"を取り入れた、アグレッシブだが
シンプルな物だった。
私の差しだしたプランを一瞥し、彼は「それで?」と私に聞く。
私は「とにかくやってみたい」と応じる。
すると"Do it"とだけ答えてくれる。その間約2-3分のやりとり。
ハートマン社長に"Do it"と認められたプランだ。私は自信を持って
上司であるGMやDOSMにプランを通すよう交渉する事ができる。
それまで否定的だったGMやDOSMも、何だか私が自信たっぷりに
プレゼンをするので、ついGOサインをだしてしまう。
私の「気合い勝ち」だ。
その他にも、同僚のプランを私が代わりに奏上し、意見を聞く事も
あった。
答えはやはり"Do it"。
もちろん無責任に言っているのではない。私たちの企画にさっと
目を通しただけでしっかりと内容を把握しているのだ。
短いフレーズの中に彼の歩んできた道程、哲学が含まれている。
そして私たちの練りに練ったプランは社長のお墨付きをもらい、
いよいよアグレッシブになっていく。
例外なく成功し、結果ホテルのビジネスに大いに貢献する事ができた。
今でも私はこの、つべこべ言わず"(Just) Do It"の大切さを
忘れていない。その精神を叩きこんでくれた彼に感謝している。
またハートマン社長と対峙する時のあの緊張感、大きな目でギロリと
睨まれる時、背中に伝わる冷や汗の感覚も今でも忘れられない。
暑い毎日、定時ぎりぎりに出勤し、何の為やら毎晩遅くまで会社に
拘禁されている皆さん。
早朝を有効活用すると、暑さも吹っ飛ぶ、但し冷や冷やする
エキサイティングな一日をおくることができますよ。
写真は上からシンガポールのブギス・ジャンクション・ショッピング・
センター。左手に見えるのがかつてのSpinelli。
ハートマン氏。
同僚のアリス。ハートマン社長に直接意見を聞いてみたら、との
大胆な提言をしてくれたのが彼女。
シンガポールの朝。