今年の休暇2-箱根山戦争
2010年 08月 21日
訪れた箱根では、かつて2つの巨大企業が戦争と呼ばれるほどの熾烈な
陣取り合戦を繰り広げた歴史がある。
「箱根山サルカニ合戦」と呼ばれる、箱根をめぐる一大陣取り合戦である。
その企業とは西武と東急。1950年代の事だ。
西武の堤康二郎、東急の五島慶太。共に「ピストルの康」「強盗慶太」
と世間からあだ名を付けられるほどの強引な商法でのし上がった、当時の
新興財閥の旗手だ。
彼らには日本の鉄道、観光、不動産事業の覇権を目指ししのぎを削った
長年の抗争の歴史があった。
五島は倒産寸前のぼろ会社である「武蔵鉄道」を再建し、東急グループ
として育て上げ、以後小田急電鉄、京王電鉄、京浜急行と次々を私鉄を
乗っ取って支配権を拡大していった。
一方堤は、鉄道より土地に早く手をつけていた慧眼(けいがん)の
持ち主で、すでの箱根の芦ノ湖・駒ケ岳・早雲山などの主要観光地を
買い占めており、私財を投じて早雲山-小涌谷-芦ノ湖、及び
熱海-十国峠-箱根に専用道路を建設していた。
五島が箱根進出を目指し、苦労し大金を投じて新宿から小田原へ向かう
小田急電鉄、小田原から箱根・強羅への箱根登山鉄道を買収したが、いわば
それは箱根で既に観光事業を展開する堤の為に、わざわざ利用客を
運んでやっているようなものだったのである。
巻き返しを図る五島が、運輸省を巻き込んで堤の専用道路に自社のバスを
乗り入れさせ、芦ノ湖に浮かべた巨大な遊覧船に送客する。
それに対抗して堤は専用道路にバリケードを張って、五島のバスの
運行を阻止するというまさに泥仕合を繰り広げ世間を大いに騒がせた。
「サルカニ合戦」と揶揄される由縁だ。
現在の箱根には、往時の抗争の傷跡は全く見られない。両社ともに
代替わりが進み、経済状況も激変した。
今は双方の交通機関の共通利用券が発行され、プリンスホテルと
小田急ホテルズの共同プロモーションも実現している。
企業同士が抗争を繰り広げれば、企業が弱体化するだけでなく利用者も
結局は恩恵にあずかる事ができない。
よって地方の観光事業に必須のデスティネーション・マーケティングは
成り立たず、その地方の観光事業そのものが疲弊してしまう。
だから無意味な抗争などするべきではないのは当然の事だ。
が、一方で、男たちが知略を絞り、様々なステークホルダー、中央官庁
や行政も巻き込み、膨大なエネルギーを費やして
「日本の鉄道王・ホテル王」の称号を得るためにまい進する姿に、
ジェラシーを感じることを禁じ得ない自分がいる。
金や権力、名声、自己顕示欲に執着するのもまた人間の自然の営みであり、
その執着の強さが結果国家に活力をもたらし、繁栄を約束するものだと
言えるだろう。
今の日本にピストルや強盗のような「ホテル王」と呼べる男は、果たして
いるのだろうか?
写真はイメージ。
下の2枚は今回宿泊した箱根仙石原の「小田急ハイランドホテル」の外観と
露天風呂のエントランス。
北里の塩谷名誉教授のご推薦によりここに2泊したが、大正解・大満足
だった。