「サムライブルーの料理人」
2011年 06月 05日
現在陸上自衛隊が福島第一原子力発電所事故の対応最前線として使用
している。
Jヴィレッジ所属の西芳照総料理長は、サッカー日本代表が海外に遠征する
際にシェフとして欠かさず帯同している。
その西料理長が著した「サムライブルーの料理人」。あまりの面白さに
一日で読み終えてしまった。
スポーツ選手にとって「食・栄養」は切っても切れない縁がある。
どんな激しいトレーニングも、食のバックアップがあってこそ身につく。
また長期にわたって不慣れな海外に遠征する選手にとって、美味しい食事
はなによりの楽しみであり、緊張をほぐし気持ちを明るくするものになる。
高質のパフォーマンスを期待するには、良質の食事の提供が欠かせない。
西料理長の言葉で面白いのは、ホテルやレストランではお客の好みを
重視した料理を出す、しかし海外遠征帯同シェフにとって、料理を提供する
相手=選手はお客ではない、共に目標を一つにする仲間なのだ、というもの。
勝利の為の最高のパフォーマンスを引き出すための食事と位置づけられている
ので、個人の趣味趣向は重視されないのだ。
でも西料理長は選手個人個人の嗜好を把握し、なるべくそれに沿ったものを
出したいと願う。
その為に、海外遠征という限られた食材、調理スペース、時間の中でなんとか
折り合いをつける為に腐心する。
同時に衛生管理に特段の配慮をしなければならない。
そこで考案したのが「ライブ・クッキング」。
遠征先のホテルに交渉し、食事会場である宴会場にキッチンテーブルを仮設、
そこでパスタやステーキ等を選手の目の前で調理する。
数種類のソースにあらかじめ下茹でしてあるロングパスタとショートパスタを
取りまぜ、選手一人ひとりが好みのパスタとソースを選び、それに応じて氏が
目の前で調理する。
ステーキも鉄板で焼きたてを用意する。ジュウジュウ焼きたてのsizzlingな
音は、選手の食欲を刺激する。
他に具材のトッピングができるうどんやラーメン、お好み焼き、焼きそば等は
「サプライズ・メニュー」として人気が高く、「今日のメニューは何かな?」
と選手は目を輝かせて毎回食事会場にやってくるという。
そのわくわく感とサプライズが選手の楽しみになり、食欲増進だけでなく、
選手やスタッフ間の良質なコミュニケーションにも貢献したことは言うまでも
ないだろう。
昨年の南アフリカ・ワールドカップでは、標高1500メートルの高地での
合宿に備え、日本から圧力釜を自費で購入しおいしいごはんの提供に
腐心する。
食材も調味料も全く異なる地で、食べ慣れない素材を工夫して人気を博す
など、代表チームの高いパフォーマンス支えた文字通り縁の下の力持ち。
まさに西料理長は「サムライ・ブルー」の大躍進を支えたメンバーの
一員なのである。
この本には:
1.サッカー日本代表の海外遠征時のウラ話
2.異文化交流の苦労と喜び
3.レストラン運営ウラ話
という3つの要素が盛り込まれている。
期せずして全て私の仕事と興味の範疇だが、サッカーやグルメ、国際交流
に関心の方にはお奨めの一冊である。
写真は上から
「サムライブルーの料理人」白水社(ソフトカバー)1600円税別
著者の印税は、東日本大震災で被災した南相馬市に義援金として
全額寄付されるそうだ。
スイス・ザ―ツフェーの日本代表合宿地 サンケイスポーツより
Jヴィッレジでのメニュー http://fura55.blog38.fc2.com
/blog-date-20100607.html より
自費で購入した圧力釜をメディアに披露する西料理長
・・・改めて感じるのは、代表選手たちが一様にお米の「ごはん」に
こだわる様子だ。せっかく世界中を転戦するのだから、日本人シェフ
なんか帯同せずその土地の料理を楽しめばいいのに、というのはシロウト
考えだという事が分かる。彼らは「勝利」に飢え、その為に徹底して
慣れ親しんだ「ごはん」にこだわっている。
Jヴィレッジ。map.go-stadium.netより
元々東京電力の休眠地だったが、福島県内に多くの
原発を建設した事の見返りの地域振興貢献として、1997年に設立した。
東京電力は今もヴィレッジの主要株主であり、役員も派遣している。
福島県知事は一方的に今回の震災対応で東電を非難しているが・・・。