接待の効用
2008年 11月 16日
彼らは一様に「今の若い営業マンは接待をしたがらない」と嘆く。
接待に当てる年間予算も確保し奨励しているのに、尻を叩かないと
やりたがらないという傾向が強いようだ。

ホテリエがゲストを接待するということは、基本的に勤務するホテル内の
アウトレット(レストラン)を利用する場合のことを言う。
ホテル以外の場所での接待を許可される例は、出張時以外は極めて
希(まれ)である。
何故ならホテルのビジネスは、ターゲットとする顧客・潜在顧客にまず
ホテルを知ってもらわなければ話にならないからだ。
顧客をホテルに招待し、施設を案内し、その後レストランで食事を共にし、
時にはバーで酒を飲みながら人間関係を構築していく。
これがホテル営業の基本的戦術であることは古今東西変わり無い。
それなのにホテル営業マンが接待を避けるとは、一体どういうことだろう?
読売新聞の1面で連載中の「食・ショック」で、最近特に若い世代で「食」
への関心が薄らいでいる、という記事があった。
それによるとインターネット調査会社「マクロミル」が20代男女を対象に
行った調査で、「今後積極的にお金をかけたい物」の1位が「貯金」(44%)、
以下「国内旅行」「ファッション」「趣味」「海外旅行」と続き、「外食」(17%)は
ようやく7位に登場する。
「外食」への関心の薄さが、若手ホテル営業マンが接待をしたがらない理由の
一つであることは間違いないようだ。また若手のクライアントも同じ理由で
接待を避けたがることもあるのかもしれない
加えて「孤食」「中食」と呼ばれるように、一人での食事を好む傾向が強い。
仕事とはいえメシぐらい自分の好きにしたいということだろう。
1998年前後のアジア通貨危機とそれに伴うRecession(景気後退)時、
インターコンチネンタル・シンガポールに勤めていた私は、上司のDOS&M
と二人で年間マーケティングプランの全面的な見直しに取り組んだ。
ホテルの売上げが前年対比10%以上落ち込むことが予想されたので、
各経費を絞りに絞りこまざるを得なかった。
ところが当時28歳の新進気鋭のDOS&Mであったスコットランド人
スチュアート・ベインは、彼の管轄する営業マンの海外出張の回数と
その経費、ホテル内での接待予算を逆に30%アップさせる案を提案して
きた。
「スチュアート、そりゃ無謀だ」
私が彼のアイデアに反対すると、スチュアートは「ミキオ、いいか、こういう
時代だからこそアグレッシブな営業を展開すべきなんだ。
俺達営業マンが部屋にこもってメールや電話ばかりしていてどうする?
他のホテルが海外出張に行かない今、クライアントを接待しない今こそが、
俺達のマーケットでの認知度を上げる絶好のチャンスなんだ」
と自信たっぷりに言い放った。
彼のアイデアは早速採用され、私達はそれまで以上に世界中のクライアント
の元へ飛んで行く毎日が始まった。
私もそれまで訪れた事のないような日本の中小企業まで文字通りドブ板を
踏む営業をし、彼らがシンガポールに視察に来る際は万難を廃して
徹底的に付き合った。
ゴルフや観光のお供は当然で、テニス、ジムでのトレーニング、
プールサイドでの日光浴、サウナやマッサージまで「裸の付き合い」をして、
彼らの心を掴み取ったものである。
残念ながらそんなアグレッシブな営業も実を結ぶのに時間がかかった
せいで、スチュアートは引責の意味でロンドンのインターコンチに
転勤してしまった。
しかしその翌年の1999年春頃からインターコンチのMPI
(Market Penetration Index・マーケット認知度比較指数)は
上がり始め、その後0911までの3年間、常にナンバー1の地位を占める
ようになったのである。

シンガポールに限らず、私が嘗て勤めた5つのホテルは幸いにも皆食事の
美味いホテルだったせいもある。美味い食事に目が無い私にとって、
クライアントとの接待は全く苦ではなかった。
毎晩のように午前様になる私だったが、幼い子供を二人抱える家内も
海外での生活に適応していて、理解があった事も幸いした。
ホテル業界しか知らない私にとって、異業種の彼らから酒の席で
話してくれるそれぞれの業界事情、また仕事とは関係のない人生観、
趣味や教養の話を交わすことは、その後の私の人生を確実に豊かにして
くれた。
むしろそういった会話を楽しむことの方が接待の主な目的になった、
と言っても過言ではない。
さて、日本の若いホテル営業マンの皆さん。
また営業の最前線に立つ尖兵ばかり人数を増やして、肝心のlogisitic
(兵站《へいたん》・後方支援業務)の充足を忘れているホテル管理職の
皆さん。
接待というホテル営業の原点にもう一度立ち戻ってみてはどうだろう?
ちなみに接待の予期せぬ副産物として、将来の伴侶となる人と出会える
素晴らしい可能性だってあるのだから。
嘘だと思う人がいたら聞いてみてください。
その成功例が確実に京都方面に一人います。
写真上はイメージ:http://herecomestheguide.comより
下はインターコンチネンタル・シンガポール

