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ホテル、レストランなどホスピタリティ・インダストリに特化したヘッドハンター茂木幹夫(もてぎ みきお/ www.kyotoconsultant.net)の「非首狩族的な」日々。


by Mikio_Motegi

恐慌は人の心から生まれる

作家の村上龍が、エッセイ「すべての男は消耗品である」で面白い事を
語っているので、少々長いが引用させて頂く。

「日本では、どこを見ても不安にならざるを得ないという社会状況が
続いている。最も大きな不安は雇用だ。リストラは加速しているし・・・
(中略)。雇用不安というのは生活に直結しているのでやっかいだ。

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いつ職を奪われるかわからない国民は当然消費を控える。
個人消費は減退し、売上げは落ち、設備投資も減る。
財政は大赤字で政府には充分な雇用対策を行う資金がない・・・(中略)。
国民保険も年金もパンクしそうだし、現在のような社会保障をいつまで
続けられるかわからない。まさに不安だらけだ」

私が村上龍のこの文書を何故面白いと考えたかというと、このエッセイ
が書かれた日付が2001年の12月3日、つまり今から7年前のことだ
という事実からだ。(「置き去りにされる人々-全ての男は消耗品である
Vol.7」 70-71ページ 幻冬舎文庫)

要するに現在の日本の状況は7年前と何も変わっていないのである。

最近の日本のメディア、特にNHKに代表されるテレビ局の過剰とも
いえる社会不安を煽る報道に接する度に、彼らはそういった番組を通し
視聴者に何を訴えたいのか、私はさっぱり意図がわからない。

世界に冠たる日本の自動車メーカーが季節労働者や派遣労働者を解雇
したのであれば、何故そういった雇用調整がもたらす深刻な真の影響を
もっと掘り下げて報道しないのだろう?

真の影響とは、彼らの住宅の確保、年を越せるか越せないか、という事
だけではない。
例えば非常に短期的な業績の確保の為に大事な労働力を切って捨て、
この不況を乗り切った後の経済復興にいかに対処しようというのか、
という点。
オバマは就任直後から「V字回復」を目指し、経済・財政をドライブさせる
戦略を着々と立てている。
日本の自動車産業は今の状況で、アメリカのV字回復について行けるの
だろうか?

「失われた10年」の間、日本の主要企業は新卒採用を手控え、かつ
従業員教育に積極的投資をしなかった。
その結果、その間に新卒採用された僅かな人材、現在の20代後半から
30代は労働人口が少なく、このブログでも度々取り上げているように
GDPを支えるにはあまりに層が薄い。
そういう人材層に我々は日本の未来を託すしかない、という問題。

雇用調整、内定取り消し、新卒不採用といった人材確保に対する負の
積み重ねが今後招くであろう深刻な社会不安に対し、警笛を鳴らし
修正を促すメディアがあまりにも少ないと考えるのは、私だけだろうか?
「失われた10年」は一度だけで沢山だ。

麻生首相も愛読するという「ゴルゴ13(サーティーン)」の最新シリーズ
「恐慌前夜」で、ゴルゴはこう呟いている。

「・・・だが、恐慌は人の心から生まれるものだ」
(ビッグ・コミック2009年1月10日号)

人の心を恐慌に向かわすのではなく、明るい未来を思い描かせてくれる
報道を日本のメディアには期待したい。

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by Mikio_Motegi | 2008-12-27 20:37 | 人材・ホテル