ホテル、レストランなどホスピタリティ・インダストリに特化したヘッドハンター茂木幹夫(もてぎ みきお/ www.kyotoconsultant.net)の「非首狩族的な」日々。


by Mikio_Motegi

ツーリズムのゆくえ-「観光」から「感幸」へ

今年も旅行業界のお祭りである「旅行博-JATA2009」が9月18日から20日
まで東京ビッグサイトで賑やかに開催された。
私はこの手のイベントには極力顔を出し、ネットワーキングに精を出すことに
している。

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JATAのお祭り気分に浸り、友人達と旧交を温めながら、私は先日参加した
京都大学大学院主催の勉強会、「サービス・イノベーション人材教育推進
プロジェクト」での議論が思い起こした。

その時の講師は山田桂一郎氏。スイスのスキーリゾートであるツェルマット
でスキーガイド、山岳ガイドを勤めるほか、「世界のトップレベルの観光
ノウハウを日本各地に広めるカリスマ」として、国土交通省 総合政策局
観光部門の観光カリスマに選ばれた人だ。

テーマは「観光から感幸へ」。
読んで字の如し、旅行業界もゲストに対し名所や風景を眺めるだけの
「観光」を止め、その土地の風物、歴史、人々と触れ合い、その幸せを
感じてもらえるよう考え方を改めよう、というもの。

ただ言うのは簡単で、実際におびただしい数の観光客一人一人にどうやって
幸せを感じてもらうか、言い換えればCS-Customer Satisfaction-
「顧客満足度」を上げるか、どこの観光地も四苦八苦しているのが実情だ。
またそんな問題意識自体持ち合わせず、現状を唯々諾々と肯定している
観光業者も多い。

山田氏はツェルマットがいかにCSを上げる為の努力を村ぐるみで取り組んで
いるか、様々な事例を紹介してくれた。

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かいつまんで紹介すると、ツェルマットは南北3キロ、東西500-700メートル
の狭い山あいに周辺人口を含めて5700人が住んでいる。
観光以外に大きな収入は無いので、村人の殆どがこの業界人だ。
チューリヒやジュネーブといった都市からも近くない。電車で4時間から5時間
の距離にある。車で来る場合もシーズン中は隣村までしか入れず、そこから
シャトル列車に乗る方法をとる。

この小さな村に116軒のホテル(ベッド数6800)、短期滞在用アパート
6500ベッドの宿泊施設があり、年間170万人が訪れている。

だが不便で小さな村だからこそ、逆手を取って観光に特化した様々な
取り組みをしている。
まず行政は厳格な建築規制を行い、ホテルやベッド数はこれ以上増やさず、
電気・上下水道等インフラの完全供給を維持している。

出生率は2.0以上。可処分所得は高い。専業主婦は殆どおらず、
夫婦共働きがあたりまえ。
それを支える相互扶助、地域や家族のサポートがしっかりとしている。

ツェルマットのスキーや山岳ガイドはアルプスや周辺の歴史、地勢、
風物から名物レストランに至るまで地域情報に精通することが要求される。
その為、4日間の研修とテストに合格することが義務付けられる。
これらは全て高い顧客満足度を維持し、一度この地を訪れたゲストを
リピーター化する為の制度だ。

日本のスキーや登山ガイドのように地域をまるで知らない、などと言う事は
ツェルマットでは許されない。
日本のように観光客に「あの山の名は?」と聞かれたスキーガイドが、
「ボクは東京から昨日来たばかりなので、わかりません」などと堂々と答える
場面は皆無だという。
言い換えれば日本のガイドたちのこのような言動により、観光客がいかに
幻滅し、リピーター化しない要素になっているかをツェルマットは良く認識して
いるのだ。

また「スイス」という国のブランド・イメージ、「行ってみたい、清潔、安全」
というイメージや、高級感溢れるイメージをお持ちの方は多いと思うが、
「感幸業」というツーリズムがそれらのポジティブなブランド・イメージを
認知させるツールになっているのである。

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さて日本の観光業はどうか?私の住む京都はどうか?
少子高齢化が避けられない日本、一方で世界に誇れる観光資源が豊富な
この国で、観光業は基幹産業に足りうるものの筈。
しかし相変わらずお寒い現実が横たわっている。

山あいの温泉旅館で夕食にマグロやイカの刺身を出したり、せっかく
地酒があるのにわざわざ大量生産の酒を供したり、女性用の露天風呂
スペースが男性用より狭かったり、カップルで泊まっているのに隣室に
小さな子供連れの家族客や団体客をアサインしたり。
旅行代理店との旧態依然のコミッション契約に基づいた、買いたくも無い、
面白くも無い土産物屋や観光施設に強制的に連れて行かれる慣行も
未だに存在している。

また何故か日本の水辺の観光地、海や湖畔などではポップミュージック
や演歌(最近はあまり遭遇しないが)を大音量で流しているケースが
多い。
何故景勝地まで来てB'zやSMAPを聞かなくてはならないのか?
波の打ち寄せる音、川のせせらぎ、湖畔を渡る風、そうした自然音
だけで充分でそれ以上は何もいらない、という感性を観光業者
は持ち合わせていないのだろうか?

そしてそんな観光地や宿には二度と行かない、と感じる人は多い筈だ。
これでは全くの逆効果である。

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ツェルマットは小さな村で、コンセンサスを得やすいのは確か。
「感幸業」で生計を立てるしかないという意識が浸透しやすいし、それは
スイスという苛烈な自然環境、国際環境が背景がある。

賑やかなJATAの会場に身を置き、日本の観光産業が「感幸」になるには
相当な道のりがある、と感じさせられた。

と同時に、山田氏のような人材を観光カリスマに認定するなど、この国の
行政はセンスの良い面もある。彼のような人材をもっと活用し、この国の
感幸産業を振興するよう、我々も努力しなければならない。

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写真は上からJATA光景。http://plus-hawaii.com

「鳩山友愛塾」で講演する山田桂一郎氏。同塾HPより。
勉強会の後の飲み会で、氏が現在コンサルをしている山陰のある温泉地
につき、私の「その温泉地のコンペティター(競合相手)はどこか?」
という質問に対し、「コンペティターは過去の自分達です」と言い切った。

ツェルマット風景。www.hoteloftuerumatt.com

JATA会場でのスナップ。
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by Mikio_Motegi | 2009-09-20 22:19 | 人材・ホテル