顧客至上主義と頑固おやじの店
2009年 09月 23日
があり、20年以上前から時々利用している。
先日訪れた際も平日なのに相変わらずの大盛況。
さすが最高のロケーション、味、値段。B級グルメの間で超有名店なだけある。

満席の店内で、私達の背後に座っていた男一人、女二人のお洒落な
モデル風の客が、笑い声がうるさいと店員のおばちゃんにしっかりと注意
されていた。
「あんた達、うるさいよ。静かにして。あんた達の声だけが響いているよ!」
たちまち首をすくめ、おとなしくなる三人。
それを聞いていた私の連れが「いつもこんなに厳しいお店なんですか?」
と驚いていた。
確かにここはオーダーの取り方もぶっきらぼうだし、忙しい時のおばちゃん達
には愛想もくそもない。
だがちんけなホスピタリティより、この店ではロケーションと味、値段が重要。
むしろ行儀の悪い客を容赦なく叱り、酔いつぶれて寝込んだ客を追い立てる
接客態度は、最近の「顧客至上主義」のトレンドと正反対の位置にあり、清々
しく感じる。
自分が年をとったせいだろうか、最近は客を客とも思わない「頑固おやじの店」
に遭遇することが滅多に無い。
昔は鮨屋でも小料理屋でもバーでも「ここはおまえみたいな若造の来るところ
じゃない」と無言の圧力をかけてくる店が多々あった。
しかしめげずに2回、3回と通い、ようやく相手も認めてくれるような、
そして自分も「やったぜ!」と満足するような関係を構築できる店が。
今は代替わりしたが、下北沢の「小笹寿司」は頑固おやじの仕切りで当時は
本当にうるさくて怖かった。
友人と初めて訪れた際、「なんにしやす?」とのおやじの声に、よせばいいのに
友人が「ウニ」を注文すると、
「最初は白身か赤身から注文するもんでえ」と案の定怒られた。
「だったら『なんにしやす?』なんて聞かなきゃいいじゃねえか・・・」と
ぶつぶつ言いながらマグロをつまんでいると、おやじは隣席の二人連れの
女性客に「鮨を食いながら髪の毛をいじるな」、「卵は最後に注文するもんだ」、
「出された鮨は直ぐに食え」と、それこそ箸の上げ下ろしまで指導している。
・・・しかし、味はピカ一だった。
その女性の二人連れは当初びびりまくりだったが、暫くしておやじが
打ち解けた表情を見せたときは本当に嬉しそうだった。
おまけに帰り際には「絶対又来ます!」ととびっきりの笑顔を見せて店を
出て行ったものだ。
「ああやって客を怒鳴るのも、一種の洗脳だな」などと友人と話したが、
とにかくそんな店と客との「摩擦係数」の高い関係が失われつつある。

では何故「頑固おやじ」の店が少なくなり、お客に優しい「顧客至上主義」の
トレンド店ばかりが増えるのか。
人と人との直接の繋がり、触れあい、摩擦が少なくなったという時代背景も
あるだろう。
同時に私は飲食店の「勘違いカリスマ」や、頑固おやじに潜在的恐怖を抱く
純粋培養された「ひ弱なコンサルタント」のせいもあるのではないかと思う。
元々「頑固おやじ」の店は個人経営が基本。つまり店が客を選ぶのは
当たり前、或いはそれが出来る環境にある。
しかし企業が経営する飲食店は、特にIPOなどを目指してしまうと売上げや
収益、各種数値ににフォーカスするあまり、勘違いカリスマや
ひ弱コンサルタントの提唱する「顧客至上主義」を忠実に実行してしまう。
最近はちょっとトレンディな店に行くと、店を出た翌日から質問攻めだ。
頻繁にメールで連絡して来て感想を聞く。今回はなぜ当店を利用したか、次は
どんな物が食べたいか等。それらは全て「顧客至上主義」の美名の下に
行われている。
しかしマーケティング調査をすればするほど、或いはお客の声を聞けば聞く
ほど、提供される商品は個性の無い最大公約数的なものになる、という
結果になってしまうのだ。
お客なんて実にいい加減なもので、聞きかじった情報と、それに伴う平均的な
ニーズしかわからないし言えないのが実情だと思う。
売上げ、収益を伸ばすのはどこの店でも至上命題だが、その為のアプローチ
を間違え、お客の声を聞きすぎると逆効果になる典型的な例と言えよう。
・・・もっとも試行錯誤を繰り返すことも大事なことだが。
しかし今更若い世代の店主に「頑固おやじ」になれ、とは言えない。
むしろ違う形での頑固さ、「これを食べてください!」といったある程度の
押し付けがましさや自信を示してくれる店を、私は好む。
繰り返すが人間の舌なんていい加減なものだ。店が絶対の自信を持って
提案したメニューに、面と向かって反論できるお客なんて何人いるだろう?
「これがお勧めです!」などと満面の笑みで提案されたら、なんとなくその気に
なって「うん、美味い!」などと膝を打つ軽薄な輩ばかりなのだから。

ちなみにこの日の三州屋銀座店では、アワビの刺身、刺身盛り合わせ、
穴子フライ、松茸土瓶蒸しx2、煮魚、野菜サラダ、ビール中ジョッキx2、
梅酒と注文し、値段は8500円。
いつもは二人で6000円以内で済むのに、この日はおばちゃんが私と連れの
女性を交互に見やりながら「今日はアワビがお奨め。安くて美味しいよ」
と言うので、素直にオーダーしてしまい、予算オーバー。
私は貝類、特にアワビは生で食べるものではない、と常日頃他人には
言い切っている。アワビは一旦火を通すべきなのだと・・・。でも美味かった。
・・・という事で、自称グルメ、実は雰囲気に流されやすいただの味オンチが
ここにも一人いる、という事実が改めて証明されたのである。
写真は上が三州屋。
中は小笹寿司。ただし私は代替わりした後は訪れていない。Cocolog より。
下はイメージ。

