マグロの将来を考える
2010年 03月 21日
食べさせてやる」と言われたら何を注文するだろう、というバカ話をするのが
趣味の私だ。
私の場合、中トロ、穴子の二つは決まっている。あとのひとつに何を選ぶか、
いまだに答えが出ない。

ドーハで開催していたワシントン条約会議で、18日、EUの提案した
大西洋クロマグロの国際取引禁止提案が大差で否決された。
欧米諸国の一部にいる極端な動物偏愛主義者たちの過激な行動に
業を煮やしていた日本には、久しぶりに溜飲を下げた人も多いだろう。
かく言う私も、これからもマグロを食べられる喜びに祝杯をあげるべく、
早速近所の魚屋さんに走りマグロの赤身と中トロのお造りの盛り合わせを
注文した。
新鮮なネタを売ることで評判のその魚屋さんのお奨めは「ヨコワ」。
ヨコワとは本マグロの体重10キロ以下の幼魚の事。安くて美味しいので
私も大好物だ。
大西洋や地中海の本マグロの漁獲高が確実に減る一方で、日本の沿岸や
近海で比較的簡単に獲れ廉価なヨコワの人気はウナギ登りだ。

だが私は少し複雑な気がした。私がヨコワを初めて食べたのは1992年の
夏、当時開業した「タラサ志摩」に行った際の、地元の漁師さんが
営業している食堂での事。
さすが幼魚でも本マグロだけあり、密度の濃い味わいは逸品だった。
ただしあの頃のヨコワは現在のように一般家庭の食卓や鮨屋に供給
される魚ではなく、沿岸漁業に携わる人たちと少数の好事家のみが
食する素材だった。
ところが今や体重が200キロ以上になる成魚の漁獲高が大きく減っている。
そしてそれを補うために、南西諸島や五島列島周辺のマグロの産卵地の
近くでの大規模な巻き網漁により、文字通り一網打尽でこの幼魚を
獲り尽くしている。
このままではこの資源が枯渇することは目に見えているのに。

今回のEUの提案は、確かに一部の動物偏愛主義者たちの世論に押された
面もある。
一方日本では古来より、生物や草木を含む万物に神が宿るという信仰が
あり、感謝の念を捧げながら魚を獲ってきた。またクジラや魚介類を
常食とする日本文化と欧米の食生活の違いを指摘するなど、理論よりも
文化的側面でEU案を批判する人が多い。つまり議論のステージそのものが
違うのだ。
では全世界の本マグロ漁獲高の大半を食べてしまう日本人は、
果たしてこの資源を有効に管理し、計画的に増やしていくことに積極的に
貢献しているのだろうか?

国民の健康意識の高まりや、食料問題解決のために「地産地消」ブームが
高まるのはいいことだ。世界的な寿司ブーム、中国でのマグロブームに乗り
利益を追求する日本企業もおり、その企業努力を否定する気はない。
が、そんなブームに踊らされていると日本人に古来から愛され続けてきた
マグロが、やがて永遠に我々の食卓に上がらなくなる日が来てしまうかも
しれない。
本マグロのような回遊魚の養殖技術開発は、ヒラメやタイ、クエなどの底魚
よりも大変な困難を伴う。だから水産庁や文科省はこの方面の研究開発に
積極的に支援すべきだ。
そして一方で、水産庁は幼魚であるヨコワ漁を取り締まる。我々消費者も
この廉価で高品位の素材を暫くガマンして食さない。
こんな努力をしていくべきではないだろうか?
よーするに獲り過ぎ、食べ過ぎはアカン、ということ。

さて冒頭の鮨ネタ。私は三つ目の鮨はその時の季節や気分に応じて注文
することに決めていた(死ぬ間際に鮨を食べる元気があったらの話だが)。
だが本マグロが枯渇していく現状で、最初のネタに「中トロ」を選ぶことに
やや躊躇してしまうのである。
(1年に2-3回しか店に来ないお前が気にすることじゃねえ。第一ウチで
出すマグロは本マグロじゃなくてメバチマグロだい!・・・とは私の
行きつけ?の鮨屋のご主人の言)。
写真は上からジャンプする大西洋クロマグロ。成長すると体長4メートル、
体重450キロに達するという。
「ヨコワ」http://kaisen-omakasebin.blogzine.jp
「マグロはえ縄漁」のイメージ。
動物保護団体「グリーンピース」のHPより。私は彼らの行動を肯定・否定
共にするつもりはない事を断っておく。
尚、今回のエントリーでは三重大学の勝川俊雄准教授のHPを参考に
させて頂いた。読み物としても大変面白い。 http://katukawa.com/

