コンプレイン
2010年 10月 03日
コンプレインに遭遇したものだ。
館内の通路表示が分かりづらくて迷った、ホテルの前に停まっていた
タクシーに乗ったらぼったくられた、チェックイン時に前金を取られた、
ノースモーキン・ルームでタバコを吸ったらいけないのか、
深夜に素っ裸でジャグジーに入っていたら男性スタッフに注意された
(女性客)、女房がマッサージ師に胸を触られた・・・
いい年をした大人が、よくもこんなしょうもない事にエネルギーを
費やして執拗に文句を繰り返すものだと、呆れを通り越して憐れみを
感じてしまったものだ。
もちろんホテル側に間違いがあれば真摯に謝るが、そうでない場合は
非を認める事はありえない。特にお金が絡むコンプレインには、
断固として対処するというのが私のいたホテルの方針だった。
ところで最近、私が利用客としてホテルにコンプレインを起こすという
事件があった。
都内の某ホテルAで、チェックイン時に私をアップグレードしてくれたのは
いいが、予約時に指定した「眺望の良い部屋」というプランだったのが、
部屋は広いが眺望の無いタイプに変わってしまったのである。
私は翌朝のチェックアウト時に支配人を呼び、簡単に注意を促した。
ところがその支配人は恐縮し、その場で私に昨夜の宿泊代金を全額返金
すると言い出したのである。
私は思わず椅子からずり落ちそうになった。
一旦売り上がった宿泊金額を、原因調査もせず、交渉もしないで
いとも簡単に全額差し引くなんて、私にはとんでもないことだったので
ある。
もちろん支配人の申し出を辞退した。
たかが2万円に充たない金額ではあるが、ホテル業において2万円を
稼ぎだすのにどれだけの人が努力し苦労をするか、私は理解している
つもりだ。
だから逆に、一度売り上げた金額を簡単に返金するというこの日本の
ホテルのシステムに困惑してしまう。
一般論だが、日本のホテリエにコンプレインに対処する
コミュニケーション力が落ちてきているのでは、と危惧してしまう。
確かにネットの氾濫もあり、あまりにも執拗で醜いコンプレイン、
クレーマーが多く、スタッフが疲弊しているのは理解できる。
だが、そんなコンプレインの迅速で的確な処理こそが優秀なホテリエの
証左、素晴らしいホテルの組織力の証明とも言えるのだ。
・・・ちなみにその某ホテルAには次回宿泊の優待券を頂いていた。
そして私は実際に翌々週、都内のホテルが閑散となる日曜日の夜に
優待料金で再び泊まり、ついでに私と帯同した知人の為にもう1部屋を、
これは真っ当なプランで利用した。
こういう形でコンプレイン客に帰って来てもらうのが最良の処理だという事
を示唆したつもりだが、このホテルは分かってくれただろうか?
30年近く前に刊行された村上春樹と村上龍の対談集
「ウォーク・ドント・ラン」で、ジャズ喫茶を経営していた経験のある
村上春樹が「一度来たお客が二度目も来る確率は10分の一にも満たないが、
それで良いのだ」という趣旨の事を語っているが、その通りだと思う。
ちなみに村上龍はそれに対し、「僕はお客が10人来たら、次回もその
10人が来てくれなかったら悲しくなってしまう」と答えていた。
写真は全てイメージ。