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ホテル、レストランなどホスピタリティ・インダストリに特化したヘッドハンター茂木幹夫(もてぎ みきお/ www.kyotoconsultant.net)の「非首狩族的な」日々。


by Mikio_Motegi

国を守る気概と義務

シンガポールは徴兵制を布いている国である 。
男性はだいたい17歳の頃に2年間の兵役を課せられ、社会人になってからも
予備役として、階級にもよるが40才まで毎年召集される。
"National Service"と称されているその制度は、警察、消防、防諜、警備
などの任務も含まれる。

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私がシンガポールのインター・コンチネンタルホテルに勤務していた約5年間
でも、同僚や部下の男性スタッフ達が毎年課せられる兵役の為、2週間ほど
勤務を空ける事が日常茶飯事だった。

もちろん業務上の引き継ぎは完ぺきにやっておくが、それについて文句を
言ったり批判する者など皆無だ。
なぜなら自国を守るための防衛機能の充実は、資源を持たず四辺を大国に
囲まれる小国シンガポールの生命線だから。

そして国民の尊い義務であり、国の独立の根幹を成す制度だと、誰もが
納得している。もちろん政府を公に批判できない国柄もあるが。

ホテルのカンファレンス・サービス担当のアルフォンソは、アメリカ軍の
「ネイビー・シールズ」に相当する「コマンド」部隊の予備役だ。
彼の体力や知力、ストレス耐性の強さはコマンドでの訓練で培われたもので、
他のスタッフたちから常に一目を置かれる存在だった。

一方では予約マネージャーのシジマールのように、警察に配備され
私の家の近所の横断歩道で交通整理をしているところを目撃されたりする
者もいる。

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最近の米海兵隊普天間基地の辺野古移転に関わる諸報道を見ていると、
日本の防衛についての根幹に関わる議論があまり出てこないのは
何故だろう、と疑問に思う。

それは、戦後60年が経過したのに、日本は自国の防衛をいつまで第3国
(アメリカ)に委ねておくのだろう、という疑問だ。

もちろんこの首相の不作為や資質もあるが、鳩山バッシングばかり熱心で、
これを機にじっくりと日本の防衛について議論を交えるという雰囲気が
日本に湧きあがらないのは、不思議でしょうがない。

むしろメディアが国民が疑問を呈さない、この問題に関心を示さないように
誘導するため、耳目を集める鳩山バッシングを続けているのでは?
と思ってしまう。
ではそんなメディアに対し、誰が何故支持し続けるのか?
アメリカ軍が日本でのプレゼンスを保つ事で利益を得るのは誰か?

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例えばホテル業界で、外資系のオペレーターに運営を委託する
「マネージメント・コントラクト」契約を結ぶ場合、そのホテルの建物の
維持管理費やスタッフの給料は契約を委託する方が負担する。

日本が駐留米軍に防衛を委託しているという事は、ホテル業界と
ほぼ同じ事が起きていると思っていい。

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ところで最近の各種統計に見られる日本の国際競争力低下の原因の
一つが、国の根幹を成す防衛を第3国に委託する事と関係している、
と言えないだろうか?

つまり「何かあってもアメリカが助けてくれる」という甘えに起因した、
親方アメリカ体質が蔓延したのも、国民の活力が失われている理由の
ひとつでは?という考えだ。
自分の国は自分たちで守るという気概の無さが、その他の競争力をも
低下させる原因になっていやしないだろうか。

もちろん60年間も防衛をアメリカに委託してきた事で享受したアドバンテージ
は大きい。端的に言えば我々は、本来費やすべき膨大な防衛予算の多くを、
経済開発に振り向けることができたのだから。

この問題について、私と違う様々な考えやバックグラウンドのある人が
それこそごまんといういる事は、私も当然認める。
また直ぐに米軍は撤退し、日本はシンガポールや韓国のように徴兵制を
布いて防衛力を増強せよ等と訴えるつもりは毛頭ない。
せめて自国の防衛について議論する場がもっとあって良い筈、と思っている
だけだ。
この国の抱える大問題を、将来の世代に背負わせる負担を少しでも
軽減させるために。

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私の実家は太平洋戦争時に経営していた工場を軍に拠出するなど、
積極的に軍備に関与した、今で言うライト・ウィング的家系だ。
いや、当時はそれが当然だった。

亡父は私たち兄弟に「お前達が大人になるまでに必ずもう一度
徴兵制が復活する。日本も戦争に巻き込まれる可能性もある。だから
その時に備えて頭と身体を鍛えておけ」と常々言っていた。

幸い今のところ亡父の予想は外れている。日本は戦後一度も
国際紛争の当事者にならず、平和と経済的繁栄を謳歌してきたのだ。

私は二人の娘たちに、かつて亡父が私たち兄弟に説いた事と同じ話を
折に触れしている。彼女たちがどこまで理解しているかは覚束ないが。


写真は上2枚がシンガポール軍。www.benravilious.com
及び http://theonlinecitizen.com より。
3枚目、ヒルトン東京。「マネージメント・コントラクト」契約ホテルの
日本の草分け的存在だ。
4枚目が普天間に離着陸するヘリコプター。
「頭を雲の_hiryuの写真日刊紙」楽天ブログより。
5枚目が普天間基地。周りに住宅街が迫る危険な立地だ。
宜野湾市のHPより。
by Mikio_Motegi | 2010-05-30 08:43 | 東南アジア