慎太郎の新作に注目
2011年 03月 06日
決断を下したようだ。3期12年間にわたる石原都政も遂に終焉を迎える。
彼の知事デビュー後暫くの間、職員を叱咤激励し強いリーダーシップで次々と
新しい施策を打ち出す姿は本当に頼もしかった。
それまでの青島幸男の無責任行政、鈴木俊一の尊大な官僚主導行政と
一線を画し、日本の首都であり世界有数の大都会である東京の人々に、
都民としての誇りと希望をもたらした、と言える。
ご存じのように慎太郎は政治家と作家という二つの顔を持っている。
Wikipediaを覗くと相当の分量が割かれており、業績が多岐に渡る事を
示している。もっともWikiはやや「アンチ・石原」的な記述が多いが。
ここでは彼の政治業績に言及はしないことにする。
私が大好きな彼の文学作品は、何といっても「挑戦」。
・・・太平洋戦争で親友を失った主人公が自堕落な生活を続ける中、
アメリカの石油油田独占で苦しむイラン国民と日本の石油危機を救う為、
無謀とも言える直接買い付けを決行する。出光興産「日章丸」事件の
実話を基にした経済小説。
慎太郎が27才の時の作品だ。とても20代の作家と思えない壮大な
スケールと緻密な描写、男のロマンを描き切る。
次に「生還」。
・・・末期ガンを宣告された主人公が、仕事も家族も全てを投げ打って
民間治療に再起をかける。凄絶な闘いの末に彼を待ち受けたものは・・・。
そしてエッセイ「我が人生の時の・・・」シリーズ。
・・・「ニクソン」では、常にケネディという光の影に隠れていた
リチャード・ニクソンの、大統領選挙での意外なエピソードを暴く。
実はニクソンはケネディに勝っていたのだ!
「知覧という町で」は、旧特攻隊基地、鹿児島県知覧で少年兵に「母」
と慕われた女性と、南洋に散った英霊との今に続く交流。
私が初めて接した彼の著作は「スパルタ教育」、私が小学生の頃だ。
これを熱心に読んでいた亡父は、「これからは我が家もスパルタ教育で
いく」と宣言し、私たち兄弟を震えあがらせたものだ。
数々の硬派のエッセイが続くが、最終章が「父親は夭折すべし」。
夭折(ようせつ)とは早死にの意味。
子は常に父の後ろ姿を見て育つ。ならば、年老いて老残をさらす前に、
父として男として早世する事で、残った子らに強烈な印象を残せる。
それこそが「スパルタ教育」を完遂できる唯一の方法なのだ、
という内容。
文字通り苛烈な生き様を見せる彼に相応しいエッセイだ。
世にアンチ石原の意見は多数ある。特に左がかった勢力からは目の敵に
されている。
もちろん彼にも脇の甘さはあるし、新銀行東京の失敗のように大いに
反省すべき点は多い。
しかし上記のような素晴らしい作品を生み出す原動力のひとつが、あの
傲慢不遜の態度にもあるのだとしたら、多少のお目こぼしは許すべき
だろう。
日本という国家に活力が失われつつあるのを実感する人は多い。
彼のようなリーダーが次世代に現れん事を願う。
写真は上から故三島由紀夫との文藝春秋屋上でのツー・ショット。
文庫版「挑戦」
同じく「生還」平林たい子賞受賞作だ。
「わが人生の時の時」
絶版となった「スパルタ教育」。再販が待たれる。
慎太郎の近影。
彼は1999年に都知事選に立候補する際、珠玉の長編恋愛小説を書く
構想を温めており、都知事になることでこの作品を完成させる事が
できないのを悔んでいた。
都知事を引退することになった今、私もその長編恋愛小説の完成を
待ち望む多くのファンの一人だ。