「昭和天皇独白録」
2011年 07月 03日
書店も多い。
世間であまり大きな話題になっていないのは残念だが、東日本大震災の
影響もあったのでやむを得ないだろう。

早速「昭和天皇独白録」(文春文庫 495円+)を購入。
昭和天皇自らが語る張作霖爆死事件から終戦までの経緯、要人の人物評、
日米交渉の裏側、御前会議のエピソードが満載で、あっというまに
読了してしまった。
特に平沼騏一郎首相、宇垣一成外相、松岡洋右外相をぼろくそにけなし、
反面東条英機や河本大作(張作霖爆殺事件の首謀者)に一定の評価を
与えている点など、独自の視点が感じられる。
けなされた人の遺族がどんな思いがするだろうかと、余計な心配を
してしまうほど赤裸々な人物評だ。

改めて驚くのは、戦前の昭和天皇は「統帥権」という権力を持ち現実の
政策に相当関与しており、戦後の「象徴」扱いとはかけ離れている点だ。
私は、GHQの戦略で昭和天皇が戦争裁判にかけられず、そのおかげで戦後の
日本人の気持ちが昭和天皇を中心に一つになり、奇跡の復興を遂げたという
事実に反発するつもりはない。
言うまでもなく私のような世代は、戦後の経済復興の恩恵を一身に浴びて
育ったようなものだからだ。
また多くの保守派の人々と同様、昭和天皇に親しみを抱いている点を
否定はしない。
かつて私は高校生の時に一度だけ天皇・皇后両陛下の姿を遠くから拝謁した
経験がある。
当時の国鉄高崎駅構内で、巡行の途中、御料車の乗った両陛下が立ったまま
群衆の静かな歓声に応えていた。
ご高齢であったにもかかわらず、微動だにせず正面を見据える姿に「国父」
としての威厳を感じたものだった。

だが、戦後同じ枢軸国でもドイツ人民がナチスを追放し、イタリアが
ムッソリーニを裁いた事で完全に過去の独裁体制を清算したという
歴史がある。
それとは対象的に、日本が自らの手で戦争責任者を裁く機会を失った事実が、
現在の日本人にどのような影響をもたらしているか、思いを巡らせる必要が
あるだろう。
つまりいつまでも自立せず、政治・経済・軍備などにおいて未だに
戦勝国アメリカの意向に左右されるという日本の現状。
かつて三島由紀夫の「日本はなくなって、その代わりに、無機的な、
からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、
或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう」という言葉が現実に
ならないように、日本人と天皇の関わりあいについて考え直す時が
来たのでは、という思いを強くした。
迷走を繰り返す現政権と、頼りにならず対立軸ともなれない野党に対し、
今上天皇に一喝して頂きたいと言ったら、時代錯誤と笑われるだろうが。

写真一番下は、昭和天皇の独白を聞き書きした外交官寺崎英成と
妻のグエン、そして一人娘のマリコ。
彼女は柳田邦夫の大ベストセラーでNHKでドラマ化された「マリコ」の
主人公でもある。
「マリコ」についてはまた別の機会にアップさせて頂くが、涙必至の感動の
ドキュメンタリーである。

