読書週間2012
2012年 11月 01日
私は毎年50冊前後の本を読むが、残り少ない人生、いわゆる
「名作」と呼ばれる作品をなるべく読もうと今年は年初に誓った。
つまりライトノベルやベストセラー本には目もくれず、版を重ねた
古今東西の本物の作品を読みたい。そうでなければもし自分が今日、この
タイミングで命を落とす事があったとしたら後悔してもしきれない、
と思ったからだ。
・・・ところが、古今東西の名著は大抵上下2巻以上ある大作なのである。
あきっぽい私はこの「上下2巻」というのが大の苦手で。
つまり今年も「大作」は読めませんでした。
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さて再読を含めた今年の私のベスト10は以下の通り (順不同)
1.「火星年代記」 レイ・ブラッドベリ著 ハヤカワ文庫
2.「君命も受けざる所あり・私の履歴書」 渡邉恒雄著 日本経済新聞社
3.「おとなしいアメリカ人」 グレアム・グリーン著 ハヤカワ文庫
4.「閉ざされた言語空間・占領下の検閲と戦後日本」 江藤淳著 文春文庫
5.「日本三文オペラ」 開高健著 新潮文庫
6.「エニグマ奇襲司令」 マイケル・バー=ゾウハ―著 ハヤカワ文庫
7.「宴のあと」 三島由紀夫著 新潮文庫
8.「女ざかり」 丸谷才一著 文春文庫
9.「たった一人の反乱」 丸谷才一著 講談社文芸文庫
10.「国が滅びるということ」 竹中平蔵・佐藤優 共著 中央公論新社
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1: 幻想小説の代表作。火星に移住した人類と火星人の運命は、衝撃的で
ある意味当たり前の結果を招くことに。その「当たり前」感が恐ろしい。
2: 世界最多の発行部数を誇る読売新聞社の独裁者は、政財界、プロ野球界
に隠然たる影響力を持つ一方、カントの哲学書を読み耽る大教養人でもある。
これじゃそんじょそこらの評論家や経営者が太刀打ちできないわけだ。
3: 自らを「正義」と信じて疑わないアメリカ人がベトナム戦争で泥沼にはまった
原因は、彼らの「無邪気さ」にあった。老獪なヨーロッパ人ジャーナリストの
視点から描く文化の違いを小説仕立てに。
4: 中国や韓国の「洗脳された反日史観」を笑う前に、戦後アメリカによって
洗脳された日本人の「自虐史観」を笑え!日本人の欧米ライフスタイル礼賛の
原点は、GHQによって刷り込まれたものだった。膨大な一次資料から検証する
衝撃の書。
5: 「生きる」為、「食う」為に、人間はここまでパワフルになれるのか?
戦後の大阪の焼け野原に夜な夜な出没する大窃盗団の栄枯盛衰記。
痛快な反権力集団である彼らは、同時に究極のグルメ集団でもあった。
6: 第二次大戦中ナチス占領下のパリに単身侵入したフランス人大泥棒
ベルヴォアールの運命は?ナチスの暗号通信機「エニグマ」の争奪戦を巡る
痛快戦争冒険小説。パリの描写が彩りを添える。
7: 東京の一流料亭を舞台に、政治家の妻であり一代でこの料亭を築き上げた
美貌の女将が、夫の選挙運動に邁進する姿を描く。清廉な理想主義者である
夫より、世俗的で女の武器をフルに活用する主人公の方が実は政治家向き
だった?
8: 一流新聞社の女性論説委員が社説に書いた「単身赴任者の妻の姦通(うわき)
は当然」の一言が、政財界を巻き込んだ大論争に発展する。スケールの大きな
ギャク、諧謔が満載。
9: 民間に天下った元エリート官僚が、モデル出身の若妻と結婚してから
狂う人生行路。膨大な知識量と強靭な想像力を駆使し、日本的伝統のあり方を
描き出す。
10:日本全体がミクロ・マネジメントにこだわり、マクロを忘れてしまっている現代
への警笛の書。TPP、原発、領土、小さい事象にこだわるなかれ。
今年の特徴は二つ。一つはハヤカワ文庫のいわゆるスパイ、SF作品が3つも
入った事。もうひとつは「丸谷才一」の著作が2点、彼の書評から購読した
作品が1点(6.エニグマ-)、計3点が入った事。昨年度の文化勲章受章を
きっかけに私が再読している著者である。先月87才で他界したが、改めて
素晴らしい作家だった、と再認識した次第。