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ホテル、レストランなどホスピタリティ・インダストリに特化したヘッドハンター茂木幹夫(もてぎ みきお/ www.kyotoconsultant.net)の「非首狩族的な」日々。


by Mikio_Motegi

黄砂(こうさ)とヘイズ

ヘイズをご存知だろうか?英語表記でHaze、煙のことだ。夭折(ようせつ)
した天才ギタリスト、ジミ・ヘンドリクスの名曲”Purple Haze”を連想する
人も多いだろう。

1997年の5月にジャカルタからシンガポールに移り住み、その年に生まれた
長女を伴って家内が京都からやってきたのが8月。
暫くして落ち着いた頃にヘイズがやってきた。
”Mikio, careful.Haze will come" 秘書のニコルが教えてくれたのが
発端だ。だがその時はヘイズの意味がわからない。
この国では「シングリッシュ」といって英語をシンガポール独特の言い回しで
表現することがある。「シングリッシュではエイズ(AIDS/後天的免疫不全
症候群)のことをヘイズと呼ぶのかな?」くらいに軽く思っていた。

翌日、その「煙」がやってきた。
朝、目を覚ましたら外は真っ白。薄い霧がかかったような状態。
「なんだこりゃ?」と戸惑いつつ出勤する。
毎朝の日課になっている、ホテル近くのカフェでいつものコーヒーを飲みながら
地元の新聞を開けると一面に”Haze Attack!”の見出しが躍っている。

”Welcome to Singapore,Mikio" ニコルがいつの間にか私の横の席に
腰掛けて言った。

ヘイズとはシンガポールの西隣であるインドネシア・スマトラ島からやって
くる焼き畑農業、森林火事に起因する煙のことだ。偏西風の強まる8月・9月に
起きることが多い。
「しかしすげー煙だ。いつまで続くの?」と聞くが、ニコルは肩をすぼめるだけ。
それでも軽く考えていたら、翌日になると煙は濃度を増し、コンドミニアムの
私の部屋から見える100メートル先のゲートも霞んでしまうほどだ。
焚き火をしたときのような異臭まで漂ってきた。
交通機関に重大な支障が出て、飛行機の発着規制、高速道路のスピード
規制が行われた。もちろんシンガポール市民の健康にも影響が出た。
生後5ヶ月の長女はたちまち喉をやられてしまった。

私にとってショックだったのは、日本でヘイズがマスコミに過熱報道され、
宿泊客のキャンセルが相次いだことだ。インターコンチがターゲットにして
いるビジネスマンの出張にも影響が出た。私の商売も上がったり、である。

「ヘイズなんて、シンガポールに来るまで誰も教えてくれへんかった。『地球の
歩き方』にも出てへんし」と家内は怒っていたが、文字通り後の祭り。

皮肉なのは、同じインドネシアでも私達が前年まで住んでいたジャカルタには
全く被害がないことだ。スマトラ島の煙もジャワ島には届かず、途中の
クアラルンプールやシンガポールに重大な被害をもたらす(あの辺の地理感覚
が無い人は世界地図を見てください)。

日本の総合商社に勤めるジャカルタ駐在の友人によると、ヘイズは単なる
自然現象でもないし、焼き畑農業が主な原因ではない。本当の原因は
パーム油の相場を吊り上げる為、農園主が意図的に火をつけているのだ、
と言っていた。

先日、日本でも西日本を中心に中国からの黄砂に覆われた。
私達家族はその日琵琶湖畔にドライブに出かけたが、当然眺めは遮られて
いる。
長女も次女もシンガポールのヘイズのことは憶えていない。
「わあ、お外が真っ白け」と言って喜んでいる。
黄砂は自然現象、と学校で教わっているのだ。

しかし私と家内は黄砂を見ると、シンガポールのヘイズとその原因について
思いを巡らせてしまう。そして娘達の屈託の無い笑顔を複雑な気持ちで
見つめるしかないのである。

写真は横浜市都筑区の黄砂。偶然にも私達の新婚時代に住んでいた街だ。
http://bungakubu.kokushikan.ac.jp/chiri/Photo/2007Jan/07Jan.htm

黄砂(こうさ)とヘイズ_c0094556_22222967.jpg

  
by Mikio_Motegi | 2007-04-03 22:17 | 東南アジア