人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ホテル、レストランなどホスピタリティ・インダストリに特化したヘッドハンター茂木幹夫(もてぎ みきお/ www.kyotoconsultant.net)の「非首狩族的な」日々。


by Mikio_Motegi

まともなハゲタカ

ホテルの従業員用スペースについて考えさせられるケースが最近多い。
特に伝統ある日系のホテルに。これは私が最近遭遇した東京郊外の
あるホテルの例。

-200室近い規模のホテルで従業員用のトイレが一箇所しかない
-男性用のロッカールームが無く、スタッフは従業員階段の踊り場で
 着替えている
-休憩室が無く、サプライヤーが出入りするトラックヤード横の灰皿の
 まわりが憩いの場
-女子ロッカー室はガベージルーム(ゴミ処理室)の中を通らないと
 辿(たど)り着かない
-従業員スペースを切り詰める為、幅がたった10センチのロッカーを特注!
-省エネが徹底しすぎて、廊下が真っ暗。
-立派な宴会場があるのに、備品類の保管倉庫が無く宴会場の一部を利用。
 大型宴会がある時は会場を利用する為、スタッフの最初の仕事は
 備品類を運び出すこと。
・・・もっともっとあるが、枚挙するのが嫌になってくる。

何故私がこんなケースを知ったか?そこに送り込まれた新経営陣から
聞かされるのだ。
つまり上記のようなホテルは大抵経営がおぼつかなく、よくある話だが
外資ファンドに安値で買われてしまう。
そのファンドは旧経営陣を退陣させ、自前で主要スタッフを送り込む。
そのスタッフ探しの為に私のような商売が成り立つ、という構図だ。

このホテルは元々地元不動産会社A社がオーナーで、全国展開している
ホテルチェーンとフランチャイズ契約をしていた。
これもよくある話で、オーナーもチェーン本部も築20年以上経っているホテルに
まともなリノベーションを施してこなかった。
しかしいよいよ経営が成り立たなくなり、昨年くだんの外資ファンドに買収
されてしまった。
「ハゲタカ」と世間で言われるそのファンドが買収後真っ先に手をつけたのが、
上記の従業員スペースを改良する為のリノベーションだった。

中核都市でJR駅前に立地し、近隣にはこれといったコンペティターはいない。
電車や車で20分ほどの所には大きな工業団地。
なのにこのホテルのレストランも宴会場もいつも閑散としている。
「このままでは市のイメージ・ダウンだ」と行政もやきもきしていた。

リノベーションの結果、買収前に比べこのホテルのADR、Rev/Roomは
10%以上向上、GOPも大幅に改善された。
ホテルは人である、とよく言われるが、スタッフのモチベーションが飛躍的に
アップし、元々ポテンシャルの高いホテルが彼らの力により再生したのである。

「『ハゲタカ』の方がよっぽどまともだよ」とは、私の知人で、そのホテルの立つ
M市の市長さんの言葉である。ホテルは来年度から新卒採用を数年ぶりに
復活させ、地元の話題になっている。

・・・これは美談ではない。ホテルの再生にはスタッフの力が不可欠。
その為に従業員スペースの改善が必要、とファンドが判断し、実行された
ビジネス・モデルなのである。

「腐ったこの国を買い叩く」とは、先月放映されたNHKのテレビドラマ
「ハゲタカ」の主人公の決めセリフ。
腐った肉を求めるハゲタカの爪は、今度はどこに向けられるのだろう。

まともなハゲタカ_c0094556_22542113.jpg

by Mikio_Motegi | 2007-04-25 22:54 | 人材・ホテル