ミケランジェロ・アントニオーニ 死す
2007年 08月 05日
にイタリアの映画監督、ミケランジェロ・アントニオーニ(Michelangelo
Antonioni)が亡くなった。95才。
世界3大映画祭(カンヌ、ベネチェア、ベルリン)全てでグランプリを獲得
しているイタリア映画界の巨匠だが、最近は引退同様だったのと、ハリウッド
で制作しているわけでもないので、彼をご存知の方は多くないと思う。
では人並み程度の映画ファンである私が何故彼を知っているかと言うと、
1966年に制作された「欲望」(原題名" Blow-Up")を観ているからだ。
「欲望」といえば 伝説のロック・バンド ヤードバーズ(The Yardbirds)
がエキストラ出演していることでファンの間では超有名だ。
世界3大ギタリストのうち、ジミー・ペイジ(後のレッド・ツェッペリン)と
ジェフ・ベック(ブラインド・フェイス、ジェフ・ベック・グループ)がこの映画で
競演し"Stroll On"を演奏している。
私は大学生の頃、ヤードバーズ見たさにこの映画を上映していた飯田橋の
名画座(死語!)の文芸座まで足繁く通ったものだ。

彼の訃報に接して改めて「欲望」をDVDで観た。解説でも述べている通り、
物事の真実とは何か、真実にどこまで意味があるか、事実を引き伸ばし
(Blow Up)真実を多くの人に検証させようとする行為に何の意味があるか、
考えさせられる作品だ。黒澤明の「羅生門」に通じるテーマでもある。
音楽監督はハービー・ハンコック。BGMがあまり目立たない点も新鮮だ。
アントニオーニは映画の観客に音楽で感情を押し付けないのである。
つまり、最近の映画やドラマは盛り上がる(盛り上がりを要求する)
場面で「これでもか」と大音量でBGMを流すが、これは演出の稚拙をカバー
する為のフェイクである。それに対しこの作品は、どこで盛り上がるかは
観客の解釈に依存する、という姿勢を貫いている。
「欲望」は制作された1966年という時代背景も作品に大きな影響を
与えている。いわゆる「フラワー・ムーブメント」の最盛期だ。
人々は自由を得たが、実は自由を謳歌する為には厄介な事がうんざり
するほどある、ということにも気がつき始めた時代である。
「欲望」は哲学的で抽象的な作風だが、「抽象画は後から意味を加える
ことで意味を成す」という言葉があるとおり、観客も作品から独自の解釈を
要求される映画、と言える。
・・・しかしミケランジェロ・アントニオーニとは本名なのだろうか?
誰が名づけたのか知らないが、将来大成すること間違いなしの名前だと思う。
写真は上が「欲望」のポスター。
下が「欲望」の1カット。主演のバネッサ・レッドグレープ(ジュリア、
オリエント急行殺人事件)。


