俺はS男だ、私はM子よ
2007年 10月 25日
ではないので、ご心配なく。
この場合S, Mでなくても例えばHやW, R, Fでも良い。要するに東京に
進出している海外の5スターホテルの頭文字である。
複数の友人、知人から聞かされた話だが、ここ数年の間に東京に新しく
できたこれらのホテル、スタッフ間のコミュニケーションが上手くいって
いないところがあるようだ。
理由は様々だろうが、その内の情けない物の一つに、トラブルの処理や
マニュアルにない場面に遭遇した際、スタッフが二言めには自分の出身
ホテルの名を出して「Fはこの場合こうだった」、「Hはこうよ」と言い合う、
という事実がある。
そんな場面に出くわす度にFやH出身でない友人は、「そんなにFやHが
懐かしいなら、辞めなきゃいいじゃねえか」と呟くのだそうだ。
ホテル事業が成功する要因は数々あるが、多くの場合そのホテルに
おける前提条件、例えばロケーション、マーケットに見合う規模・施設構成、
オーナー企業のバックアップ・資金力といったものがあることを忘れては
ならない。
それは例えば都内でRev/Perの高いホテル、六本木ヒルズに位置する
G.ハイアット、宿泊特化型高級路線のF.シーズンズ丸の内、超優良企業
がオーナーのP.ハイアット等である。
言い換えればそれらの前提条件があってこその成功、プロジェクトの
勝利なのである。
上記ホテルも国内展開している他店では苦戦しているところもある、
という事実がプロジェクト(前提条件)の重要さを物語っている。

評論家の故山本七平の著書「日本はなぜ敗れるのか-敗因21か条」
(角川Oneテーマ21、781円税別)で太平洋戦争における日本軍の
敗因を論評している。
その第7章「芸の絶対化と量」で、日本軍には「徳川時代以来の、
外的制約を固定してそれが絶対動かないという根拠無き信念のもとに、
その固定の中で芸をみがき、その芸が極限まで達すれば外的制約は
動かなくてもそれを乗り越えて万能でありうるという考え方があった」
としている。
例えば宮本武蔵は武器を刀剣に限定されていたから強かったのであり、
日本海軍は奇襲作戦であったが為パールハーバーで勝利した。
武蔵は鉄砲を持つ相手には無力だし、日本海軍はミッドウェーで総力を
挙げて臨んだ米海軍に大敗したのである。
つまり前提条件があってこその強さ、勝利であって、それが崩れた時
の脆さはあっけないほどのものなのだ。
どうもこの性癖は日本人特有のもののようだ。
私がいたシャングリ・ラ・ジャカルタやインターコンチネンタル・
シンガポールには、それこそグランドハイアットやリッツ・カールトン、
フォー・シーズンズの出身者が多くいたが、日本のホテルのように
「ハイアットでは」とか「リッツでは」等の話題はついぞ聞いたことが
なかった。
それらの都市ではインターナショナル・ホテルに勤務することのステータス
は日本よりはるかに高いし、人材のMobility(流動性)はもっと高いにも
かかわらず。
スタッフ間のコミュニケーションが上手くいって無いホテルのマネジメントは、
即刻宣言すべきだ。
「キミたちが以前勤務していたホテル名を標榜し議論のたたき台に
するのは禁止します」と。
もちろんその際に「ボクが以前勤務していたPではそうしていました」
などと口走らないように。

