クリスチアーノ・ロナウドの時代
2008年 05月 24日
見ようとテレビのスイッチをつけた人は、飛び込んできた異様な映像に
驚かれただろう。

この日は特別番組で、UEFA(欧州サッカー連盟)チャンピオンズリーグ
決勝戦を早朝3時半から放映していたのである。
会場はモスクワのルジンスキ・スタジアム。
1980年のモスクワ・オリンピックのメーン・スタジアムで、当時は
「レーニン・スタジアム」と呼ばれていた。
大粒の雨の降る中、22人の男達がモスクワで演じた戦いはまさに「死闘」と
呼ぶに相応しいものだった。
1955年に創設された、欧州の各国リーグの優勝チームと上位チーム、
計32チームが戦うチャンピオンズ・リーグは、UEFAでのクラブチームの
頂点を決め、且つ世界で最も権威のあるクラブチームの戦いである。
世界で10億人以上いるといわれるサッカー人口の、将に頂点を極める
大会なのだ。
決勝を戦うのは共にイングランドの2チーム、マンチェスター・ユナイテッド
とチェルシー。
日本ではマンチェスター・ユナイテッドを「マンU」と略すが、私が以前
暮らした旧英国植民地であるシンガポールやマレーシアでは親しみを
込めて「マンチェン」と呼ぶ。
イングランドのチーム同士が決勝を戦うのは史上初だ。
武骨な戦い方が特徴のイングランドは世界のモダン・サッカーの潮流に
ついていけず低迷していたが、今大会は準決勝4チームのうち3チームを
占めた。
今世界で最も人気・実力の高いリーグであると言えるだろう。
少々専門的になるが、UEFAの統計を見ると今回のチャンピオンズ・リーグ
参加32チーム中で最もBall Posession(ボール占有率)が高いのは
スペインのバルセロナで平均59%。
2位以下が同じくスペインのレアル・マドリッドの58%、セビリアの54%と続き、
チェルシーは51%で11位、マンチェンに至ってはやっと50%で14位という
ていたらく。
またShot on Goal といってゴールの枠内にシュートが飛んだ本数は
やはりバルセロナが1試合平均7.15本で1位。2位にイタリアのラツィオが
7本、3位がドイツのブレーメンで6.5本。
チェルシーは6.46本で4位と健闘しているが、マンチェンはたった5.08本で
18位と下位に甘んじている。
この辺りがサッカーという競技の難しさで、ボールを長くキープしても、
或いはシュートの正確性を高めても、(比較的優位に試合を運べるが)結果
には結びつかないのである。
その証拠に今回の決勝戦も、前半はマンチェンが65:35と占有率で圧倒
していたが、1点しかリードできずに前半終了直前にチェルシーに同点
ゴールを許している。

さて折角の決勝戦だが、残念ながら旧レーニン・スタジアムのピッチ・
コンディションは良くなかった。人工芝からこの試合に合わせて天然芝に
急遽張り替えた為、スリップする選手が相次ぎ興がそがれた。
特にチェルシーの得点はシュートに備えたマンチェンのゴールキーパー
が芝に足を滑らせバランスを崩した際に生まれたものだし、逆に
ペナルティ・キックをチェルシーの選手が外したのも、ボールを蹴る際の
軸足がスリップしたからだ。

さてさて日本でも数年前にゼロックスのコマーシャルに登場した、マンチェン
のポルトガル代表クリスチアーノ・ロナウドである。
日本のマスコミが視聴率を稼ごうと無理やりスター扱いしたような選手に
私は全く興味はないが、C・ロナウドは別格だ。
まだ23歳の若者だが、2006年のドイツでのワールドカップで世界の注目
を浴びた。
スリムな体型、モデルのような顔立ちだが、彼のフィジカルとスピード、
そしてクイックネスは将に現代サッカー界の頂点に位置する。
無理な状況でもドリブルで果敢に1対1の勝負を挑み、殆ど勝つ。
ボールのないところでも爆発的なフリー・ランニングを繰り返す。
ヘディングも高く・力強く、フリーキックを蹴らせたら悪魔のような無回転
シュートが唸りをあげてゴールを襲う。
今大会でも得点王に輝き、文字通り世界のスーパースターに仲間入りした。

彼ならばマラドーナ以来絶えて久しい、ペレ、ベッケンバウアー、クライフと
並び称される「伝説のスーパースター」になれるかもしれない。

結局朝の3時半から7時近くまでテレビ観戦をしてしまった。
ところが不思議なもので、これだけ内容の濃い試合を見せられると体内の
アドレナリンが活性化するのか、日中も全く眠くならない。
ヨーロッパで行われる夜中の日本代表のしょーもない試合(それでも応援
してしまう・・・)後の深い脱力感と後悔が、今回は全く感じられないのだ。
6月からは今度は国代表の欧州ナンバーワンを決める「ユーロ2008」が
開催される。今回以上の興奮が期待でき、今から楽しみだ。
写真は上から、マンチェンのベテラン選手スコールズ。鼻を強打し出血が
止まらない状態でもプレーを続行、見事にC・ロナウドの得点を演出した。
C・ロナウドのヘディングシュート。
スリップしPKを外した直後のチェルシーの主将テリー。
「彼がいなければここ(決勝)まで辿り着かなかった」とは、テリーについて
マスコミにコメントを求められたチェルシーのアヴラム・グラント監督の言葉。
男の世界だねー。
マンチェンの監督ファーガソン卿に祝福されるC・ロナウド。
優勝カップを掲げ歓喜のマンチェン。
(統計は uefa.com 、 写真は soccernet.espn.go.com より)

