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ホテル、レストランなどホスピタリティ・インダストリに特化したヘッドハンター茂木幹夫(もてぎ みきお/ www.kyotoconsultant.net)の「非首狩族的な」日々。


by Mikio_Motegi

木賃宿に泊まる

表現が正しいのかどうか分からないが、とにかく旅館でも民宿でもない、
「木賃宿」としか表現のしようが無い宿泊施設に泊まった。
場所は福井県若狭町熊川宿(くまがわじゅく)の「きく屋旅館」である。

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熊川宿は平成8年に文部科学省より「重要伝統的建造物群保存地区」
に認定されたことを機に、全長400メートルほどの通りを風致地区として
整備、電線を地中に埋め看板を外し家並みを整えた。

京都と福井県小浜市を繋ぐ、いわゆる「鯖街道(さばかいどう)」の
途中の宿場町で、町興しの為に行政主導で整備された通りである。

「きく屋」は江戸期から続く旅館だ。最盛期には熊川宿に14軒旅館があった
そうだが、現存するのはここだけ。年配のご夫婦だけで営んでいる。

午後4時頃に到着、車を旅館の前に横付けしたままで散歩に行く。
辻々に細い、しかしかなり水量の豊富な用水路が張り巡らされていて、
水音が涼しい。
ウグイス、郭公やこじゅけいの鳴き声がにぎやかだ。
気がつくと、自然の音しか聞こえない。
車の騒音やオーディオ、BGM等の人口の音が全く聞こえないのだ。
都会では味わえない贅沢にひたる。

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何でこんなところに泊まることになったかというと、翌朝9時にスタート
する「若狭あじさいマラソン」に出場する為だ。
今年からはじめた4回目のハーフマラソンだが、熱が高じてついに泊りがけ
で参加することになった。もちろん家族は帯同せず、私一人。

1時間ほど散歩して旅館に帰る。
宿の主人から、今日の宿泊客は私一人と聞き愕然とする。

京都から福井に行く公共交通機関は極めて限られており、京都を朝5時に
起床しJRやJRバスを乗り継がないと、朝9時のスタートに間に合わない。
私は体力温存の為に前泊することに決めた。
大会のHPから検索し、周辺の宿泊施設で一番便利なのがここ「きく屋旅館」
だということが分かった。
実は私は同じような趣旨で旅館がマラソン客でごった返して落ち着けないの
では、と危惧していたのである。

とても拍子抜けしながら夕食をとる。メニューは豪華だ。
新鮮な魚介類は毎朝ご主人が小浜から仕入れてくるとのことで、今日は
黒鯛とイカ、大型のトビウオの刺身。トビウオは味噌だれで頂く。
他に名物の絶品の焼き鯖、地鶏肉のソテー、ポテトサラダ、これに生卵を
落とした具沢山の自家製味噌汁とご飯、手製の漬け物。

食事を終えると午後8時。風呂から上がり、買い込んでおいた地酒を
ちびりちびりとやりながら、日頃なかなか読む時間が取れなかった歴史モノ
「氷川清話」に取り組む。
カエルの鳴き声と水音だけが相変わらず聞こえる。

ふと気がつくと部屋に目覚まし時計が無い。携帯のアラームをセットしたが、
念の為、ご主人に朝6時半に起こしてくれるよう依頼する。ご主人は快諾。
いつものように0時過ぎに就寝。

翌朝、ご主人に起こされる。「もう朝飯の用意ができているよ」
時計を見ると、まだ朝の5時!6時半に起こして、と頼んだのに!!

「これじゃ京都から日帰りで来ても一緒だったよ」
「もう少し寝ていようか」とぶつぶつ言うが、
根が「前向き」な私はすぐに「寝坊するよりはいい。時間ギリギリで到着
するより、ゆっくりと準備もウォームアップもできる」と考え直し、
そのまま寝床を上げて朝食をとる。
快晴。ご夫婦に見送られて車でコースに向かう。温かいホスピタリティに
じんと来る。
何でご主人は依頼した時間より1時間半も早く私を起こしたのか、くよくよ
考えたりせず、やっぱり早起きは三文の徳だ、と自分に言い聞かせる。
何て前向きなオレ・・・。

しかし、マラソン会場にはたった10分で着いてしまった。
スタートまでまだ3時間もある。

登録を済ませ、何もすることが無いので、会場である小学校の校舎の
軒下でごろりと寝転ぶ。お腹は満腹。空はどこまでも青い・・・。

・・・なんとなく周囲が騒がしい。「ハッ」と気がつく。つい眠ってしまった。
時間は!? 
息を呑む。何とスタート5分前。
2時間以上熟睡した、と喜んでいる場合ではない。
トイレにも行けず、勿論ウォームアップなどの時間も無い。
慌てて既に全員が並んでいる列の最後尾に着いた直後にスタート。

結果は、一応完走。しかしタイムは初マラソン時よりはるかに遅い。
寝起きでいきなり走り始めた為、身体が重く、足取りはよたよた。
途中何度もリタイヤしかけた。

帰り道、田んぼの農道に仮設された駐車場までの道のりがやけに
遠い。

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今回の旅行での教訓1.
目的がマラソンであれ仕事であれ、宿泊施設を選ぶ際は部屋の
アラームの有無を確かめよう。

教訓2.「前向き」志向は時にアダとなる。 あの時寝てりゃ良かった・・・。

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by Mikio_Motegi | 2008-07-05 23:01 | 京都・紀行